【旅:奥入瀬渓流D】



【2日目 その4】

「乙女の像」から浜とは反対のほうに林の中を進んでゆくと、「十和田神社」に辿り着く。
その名の通り、十和田湖を鎮める神社のようだ。
東征してきた坂上田村麻呂の創建とのことだが、それ以前からも修験の場であったらしく、多くの湖の伝説にある「龍神」が岩室などに祀られていたのではないだろうか。

お社は小ぶりながらも唐破風を伴った格式の高い造りとなっており、斗橋も多重で江戸時代以降の様式を引き継いでいるようだ。蔀戸の細やかな格子も美しい。



そろそろ帰りの船の出発時刻が近づいてきた。急ぐとしよう。

船着き場には陽射しの中、ゆったり、のんびりと2艘の周遊船が泊まっており、船員さんたちが談笑している。

片方の船は近場を巡って、またここに戻ってくるらしく、もう片方が「子ノ口」まで行くようだ。



船に乗り込むが、あとに続いて乗船してくる人が見あたらない。
どうやら乗客は私ひとりだけのようだ。
何だか申し訳ない気分になる。

そんな気持ちを引きずりつつも、2階の一般席最前列を広々と使わせていただき、出発を待つ。
しばらくすると「ゴー」っというエンジンの音とともに、船が岸を離れ後進しつつ向きを変えはじめた。

青空が映り込んだ湖面に陽が射して、キラキラと輝いている。

ゆっくりと進み出した右手を、先ほどまでいた「乙女の像」の建つ浜辺がゆっくりと近づき、そして離れてゆく。

御倉半島には多くの松の木が自生し、絵に描いたような樹形をしている。
船内のアナウンスによると、人手をかけていないにも関わらず、自然にそのように育つのだそうだ。
土台となっているのが溶岩の塊だから、栄養を無駄なく使うために自ら下枝を落とした結果、そんなふうになっているのかもしれない。



それにしても半島の緑が空と湖面の青さに映え、実に美しい。

船尾のデッキに出てみると、澪につづくその先に湖を取り巻く外輪山がなだらかな稜線を描いている。



流れゆく舟風も淡水であるためか、さらっとしていて清々しい。

そうこうしているうちに船はそろそろ着船地の「子ノ口」に着こうとしている。
ふたりの船員さんがもやいの準備のためデッキに出てこられた。


船はゆっくりと左へ舵を切りながら岸に吸い寄せられてゆく。

実に気持ちのいい60分間の船旅であった。



日の入りにはまだ時間があるが、そろそろホテルへ戻ることとしよう。



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